村上シンジ 連続ブログ小説 「零」3
オーディションは明日の夕方。
完コピに向けて練習出来る時間は昼の12時位までだろう。
一曲だし、集中すればなんとかなるとは思う。
もう10年近く一応プロでやっているのだから、余裕だろうと思われてしまうかも知れないが。
確かに一人で冷静に弾くだけなら流石に一曲のコピーで心配したりはしない。
だが、明日は大事なライブオーディションだ。
全力のパフォーマンスをしながら一音一音に魂を込めて演奏しなければならない。
それをJ音とS子と三人でグルーヴさせる。
意外と大変なのだ。
しかもリハーサル出来るかどうかも分からない状況ときたもんだから、焦るのも無理は無い。
(さっさと帰って練習しよう。)
帰りの車内。いつも通りS子とくだらない話で盛り上がっていたのだが、何か大切な事を忘れているような気がして落ち着かなかった。
そこでS子がボソリと呟いた。
S子「明日チャドがアメリカに帰っちゃうんだよね〜。」
俺「あっ!そうだ!そうだった!!お別れ会しなくちゃΣ(゜д゜lll)」
「チャド」とは僕らがアメリカはテキサスのミュージックフェス「SxSW2004」に出演した時に出会った心優しいアメリカ人だ。
2011年のドリカムのツアーでアメリカに行った時も、色んな所に連れて行ってもらい、ご馳走になった。
だから日本に来た際には絶対に接待して、恩返しをしようと決めていた。
そのチャンスは今日しかなかったのだ。
ここで行かなかったら俺は口ばっかりのファッキンジャップになってしまうだろう。
それは許されない。
そんな奴が音楽を演奏した所で誰かの心に響くわけも無い。
チャドを華々しく送り、徹夜で覚えればいい。
そう覚悟を決めた。
しかし、分かってはいたのだが、大事な人のお別れ会がそんなに早く終わるわけもなく、時計の針はすでに午前0時を回っていた。
残りは後12時間。
続く。