村上シンジ 連続ブログ小説 「零」7
午前10時。
携帯のアラームが耳元で鳴り響く。
あの「マリンバ」の陽気なメロディだ。
「テンテケテケ......。」
一周目の途中で音を止めた。
細胞レベルで危機感を感じているせいか、寝起きはとてもスムーズだった。
いつもならダラダラとギリギリまで寝てしまう所だが、まるで人が変わった様だ。
昨日食べた焼き鳥が僕のグルメ細胞を活性化させたのだろうか。
となると僕は「トリコ」でお馴染みの「グルメ細胞活性化組」と言う事になるのだろうか。
まぁいい。
即座にベットメイクを済ませ、ベースを手に取った。
パソコンに音源のCDを入れて、再生ボタンを押し、ヘッドホンで聴く。
ベースの音はヘッドホンで聴くのが一番聴き取り易い。
初めて集中して聴く「Born To Be Wild」のベースライン。
1コーラスが終わった頃、僕は慌てて停止ボタンを押した。
「なんだこれ!?思ってたより全然複雑やんけΣ(゜д゜lll)」
そこから5分間程記憶がない。
おそらく絶望感による放心状態に陥ってしまったのだろう。
とりあえずタバコを吸う事にした。
「落ち着け。今までもギリギリの所でなんとかやってきたじゃないか。どうなるにしろ、やれる事をやれる所までやるしか無いんだ。」
僕の頭の中で何かが弾けた。
タバコをすぐに消し、ベースを弾き出す。
何度も何度も聴き直し、弾いて、弾いて、弾き倒した。
約2時間。
右手の指に少しの痛みを感じるようになった頃、ようやくベースラインをフルコーラス理解する事が出来た。
不可能だと思っていた完コピ。
しかし、根気よくやれば必ず出来る。
そして、やらなければ絶対に出来ない。
ただそれだけの事だった。
ただそれだけの事で人生がとんでもなく変わってくる。
だったらやるに越した事はないだろう。
シンプルだが、とても大切な事を思い出せた気がする。
後りの1時間、時間の許す限り練習して体に入れるだけだ。
そしてまたそこからの1時間は記憶が飛んでいる。
まるでタイムスリップしたかのような早さで時が流れて行った。
出発の時間だ。
やれる事はやった。
後はJ音とS子と出すグルーヴを、いつものように楽しむだけだ。
そして戦いが始まる。
続く。